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天元突破グレンラガン 9話『ヒトっていったい何ですか?』

『グレンラガン』7話、8話の展開は神がかっていた。
それまでの地上の荒廃した様子を描いていた展開を、たった30分で一気にクライマックスのテンポへ急変させてしまった7話。
そして言うまでもなくこれまでの”シモンとカミナ”のドラマの絶頂だった8話。
この先どうするのかと思ったら、9話は完璧にそれを受けきって、次なるおおきな展開へつないでしまった。

前半はひたすらシモンの空回りとバラバラの大グレンの様子を描き、カミナという男の喪失を描くのに時間をかけた。後半は、きっちり同じ流れを引きずりながら、新しいドラマの展開をひらいた。
こうやって書くと簡単だけれど、問題はそんなに単純ではない。
シーンひとつひとつに”換えがきかない”ため、それぞれ本当に必要なことを、描くべきときに完全にやりきらなければならないからだ。

絵的なイメージとして前半は長い長い雨、ニアに出会ったそのとき空から光が差した絵作りのトータルイメージもいい。9話でのカミナを失った落ち込みと、新しい物語をひらく新しいヒロインの登場のターニングポイントとして、印象的なものになったはずだ。
シモンの落ち込みに正当性を持たせるために、8話でシモン自身の弱さが”アニキの死”という結果につながったこともきいている。
そして、8話冒頭でシモンをヨーコにときめかせたのもいい。「女性で揺れて、女性で立ち直る」というのは、男性客にとっては納得がいく流れだし、新ヒロインのニアの役割も『グレンラガン』全体の中で明確になるからだ。
そして、9話ラストでは、まだカミナを失ったどん底は「ラガンの変調」というかたちで強調され、復調のきざしすら薄い希望でしかない。
『グレンラガン』という物語全体を見ても、カミナの存在を、喪失のあとも大きくあつかい続けていることには大切な意味がある。

実際、いつかは『グレンラガン』という物語は、カミナを置いてさらに遠くへ行かなければならないのだけれど、そのときのため印象は残していなければならない。
主人公シモンと一緒にお客さんに旅をさせる物語だからこそ、振り返ったときそこに残っている思い出は、キラキラしているように描かれきっている必要があるのだ。

7話、8話、9話の展開のなにが神がかっていたかというと、結局ムダなシーンをひとつも作らなかったことだ。
脚本の中島かずき氏の手腕は、アニメーション脚本以上に(実際に人が動くうえセットにより背景の制約がある)舞台脚本の人だけに、さすが、本当に確かだ。

必要そうなシーンを全部作ってしまって詰め込むのではない。
本当に必要なものが何なのかをしっかり考えて、描くべきものをまず絞る。そうすることで、シーンも物語もすっきりまとまって、結果的に伝えたいものを締まったかたちて提示できるのだ。
逆に言えば”換えがきかないシーン”を作るためには、あまりせこせこシーンを切り直しているわけにもいかないのだ。情報を増やすと、印象的になるべきものが、そこに埋没するのだから。
「物語をシーンで構成する」ということは、つまりこういうことなのである。

行程的に言うと、こうなる。

  1. 30分なら30分と決まった尺の中で、なにを描けるかを考える。
  2. この話でやりたいこと、前後の物語の流れからやっておくべきものをきっちり考えきる。
  3. それをどう配置すればいいかを練って練ってベストなかたちを探す。
  4. それを最後に物語のかたちにまとめて、統一をとる。

物語づくりの基本の部分なのだけれど、これはそうそうやりきれることではない。いや、いい加減になってしまう。
なぜかというと、かけられる時間は有限で、4行程踏まなくても同時並行して1度にできてしまうからだ。
けれど、きっちりやっているモノとの間には確実に差が出てしまうのだなということを、うんざりするほど明確にしてくれた7、8、9話だった。

実際には、ひとつおおきな山を作った後の「次への移行期」というのは、苦労するものである。
次に置くものは刺激として盛り上がりきらず、かといって前の山を捨ててしまうと、余韻もなく、物語全体としての物語の積み上げも弱くなる。

これを、ドラマ的要請で8話の山をつくりきったあと、9話で、「設定的要請としてお客さんにこれまで秘密にしてきたことを一気にあかす」という別種の山をつくることで、のりきらせた。
これが、どういう効果を働かせたかは、実際、今現在、お客さんの中にはいっている印象を胸の中に聞いてみたらいいと思う。
カミナのことは印象に残っていても、ヴィラルのことはそこまで印象に残っていないはずだ。この効果をきわだたせるために、9話前半の”大グレン団”視点のシーンでは、8話で名前を出した螺旋王たちのことに一切触れていない。
そして、『グレンラガン』世界の中でのカミナの位置づけを考えたとき、彼は実は「ヴィラルと互角」(8話)の人でしかないのである。
そういう組み立てを持つことで、お客さんの中でセリフも説明もなしで「物語は一段階おおきなステージに立ったのだ」ということを提示してしまったのだ。

ハリウッド映画などでよく使われる三幕構成をものさしにすると、7話から8話の展開が第1幕のクライマックス部にあたる。
(三幕構成については、興味のあるかたはこのあたりでも参照してください。下の方が三幕構成の話)
8話の、カミナ死亡が確定したあたりが第1幕の切れ目になるターニングポイント。
9話からが第2幕の開始になる。
日本のアニメーションは、13話1クールの切れ目のところで物語を切ることが多いので、めずらしい構造を持っていることになる。
たぶん『グレンラガン』の全体構成的に、13話付近には、ミッドポイントが発生することになる。かなり大きな転換点になるはずなので、どういうものを持ってくるのか楽しみだ。

おそらくカミナと同じ役割にたつキャラクタを、『グレンラガン』はつくらないだろう。
9話からの新オープニングのラスト、シモンが腕にマントの切れ端を結ぶそのカットが示すように、その喪失した穴はシモンが埋めてゆくものなのだ。
そして、8話のあの盛り上がりの中、カミナが最後にくりかえしてお客さんに提示したセリフが、これからも大きく立ち上がってくる。
「俺が信じるおまえでもない。おまえが信じる俺でもない。おまえが信じるおまえを信じろ」

本当に、成長物語の”アニキ”の描き方として、カミナの位置づけはすばらしかった。
それは完璧な理想像ではない。カミナがひるんだり汗を流したりするシーンは、実際よく描かれている。
その彼が遺したことばにたどりつく過程ですら、シモンを認める、つまりカミナ自身にとっては自分の限界を知る過程の中のものだった。(7話)無言で、よき”アニキ分”としてそれにカミナは対面し続けた。
そして常に、シモンと同じようにおそれ、そして”カミナなりの方法で”シモンよりちょっと前向きな彼なりの答えを出してきたのだ。
そんな弱さが描かれているからこそ、シモンはその背中を追いかけてゆける。そして、その道はいつしかカミナではなくシモン自身の道であり、同じ道を”アニキ”といっしょに歩いていることを知るだろう。
”成長の物語”として、『グレンラガン』のデザインは卓抜している。

本当に、アニメーションは集団作業だとはいうけれど、それはつまり「いろんな方向からの高い能力が、集まってひとつのより素晴らしいものをつくる」ということなのだ。
それは理想論でしかないのだけれど、『グレンラガン』は今のところ、そういうものをお手本のように見せている。

見事な仕事というのは、そうあるものでははない。
いつもは話が終わるとさっさと別作業に移っているのだけれど、この9話を見終わったあとは、録画ファイルが終わるまで画面の前から動けなかった。

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